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ヒオウ・ヒナタ~~溺愛魔王と俺様~~

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邂逅ー萌芽



ヒオウはその日も何をするでもなく、ぶらりと釣竿を持って宿屋を出た。グレミオがいつものように一緒についてくる。

「あのさ、グレミオ。僕だって子供じゃないんだから、そんな四六時中くっついてこなくていいよ。」

ヒオウがため息をつきながら言った。

「なにをおっしゃいますか。だいたい四六時中とおっしゃいますが、ちょくちょくこのグレミオを巻いてどこかに消えてしまっていたのはどこのどなたですか。ああ、よもや人に言えないような事をなさる為にわたしを巻いていたんじゃありませんよね?」
「何?人に言えないような事って・・・。言っておくけど、これでも僕はもう二十歳なんだけどね?」
「ぼっちゃんっ。ぼっちゃんはこのグレミオにとってはおいくつであろうと変わりません!!」
「・・・・・。だいたい、確かにこの村に着いたときは、静かにゆっくり釣りでもして過ごしたいとは言ったけど、グレミオがそんなに必死になって人払いしてくれなくても、自分でどうとでも出来るから。」
「そんな。ぼっちゃんはグレミオがお嫌いなんですかー。」
「・・・分かったよ・・・。好きにしてくれたらいい。」

ため息をつきながらヒオウは諦め、このバナーという村にきてからいつも来ている奥まった場所で釣りを始めた。

トランの英雄と呼ばれる彼はあの日出奔してから特にあてもなく各地をぶらぶら旅してまわっていた。
その間もグレミオは今のように、まるでヒオウを何かから守ろうとしているかのようにそばをついてまわった。グレミオはもちろん好きだが、あまりの過保護さにヒオウはよく閉口し、たまに彼を巻いては一人で行動していた。

あの戦争で彼に起こった事を知る者は大抵、トランから離れたのは紋章の呪いのせいなのだろうと考えた。

近しい者の魂を奪い力とする紋章、死神とも呼ばれるソウルイーター。

実際彼の身近な魂を取り込み、その度に力は強くなった。

人々は、悲しみに打ちひしがれ大切な人の思い出溢れる地を去ったのだろうとか、これ以上近しい人を奪わないよう誰も知る者がいない地へと旅立ったのだろう、などと噂した。

ヒオウ自身にもその噂は聞こえた。
そして自分は割りにやわな人物だとでも思われているのかと苦笑した。

そんな絶望を今更するくらいなら戦時中にしている。だいたい戦場にいたのだ。誰かが死ぬのは当然だとは言わないが、有り得る事として受け止めている。

それにこの紋章。
ソウルイーター・・・魂を喰う、ね・・・。
確かに取り込み力となるのは間違っていない。死神。

だが死神とは死んだ者の魂を刈るのが仕事だろう?
考えてみて欲しい。死んだ、者、だ。通常、生きた者の魂を無理やり刈っていくのではない。死んだから刈るのである。
自分の身近な魂を刈った時だって、死んだり命令したからであり、生きている状態で無理やり吸い取ったりした訳ではない。まあ、故意に術をつかい刈ることは出来るけどね。

呪いでそういう羽目になるとも思わない。
だったらこの四六時中まるで僕にとりついているのかというくらいそばにいるグレミオはもう2、3度は死んでしまってもおかしくないではないか。
だが彼はこの3年、病気一つすることなくある意味僕より元気だ。

まあ、人々が自分の事を繊細だと思いたいのなら思っておけば良い。
僕自身は、ただ単に退屈だったから旅に出ただけなんだけどな。

腐り果てた帝国軍を打ち破り(出来れば父とは戦いたくはなかったが、それももう、終わった事。最期のときに分かり合えた事で、もう十分と思った)、国を滅ぼした時点で自分にはやる事がなくなった。
あのままあの場にいれば間違いなく今度は国を背負わされていただろうけどそんな事までやっていられない。
せめてそれくらいは任せてもいいだろう?
勿論壊したものを新たに築き上げていくのは大変だけどね。
とりあえず自分のやる事は終わったと考えた僕は他に何か楽しめる事を探して旅に出た。

退屈は困る。
人生は長いからね。
特に僕には。

これから夏になろうとしていた時期だったから北に向かった。
そして色々見てまわった。
グレミオを巻いた時は彼にばれたら絶対に煩いであろう事ばかりしたかもしれない。

そうこうしているうちに段々ハイランドと都市同盟との間に何だかきな臭い噂が飛び交うようになった。
ハイランドは後ろ盾にハルモニアがある。
ハルモニアは出来ればあまり関わりたくない国だ。この紋章を持つ身では。
それにグレミオも危険だと煩いので、なら今度は南にでも行くかと地を下ってここまで辿りついた。
群島を目指そうと思っていたが、ここのところ、早く争い事から離れましょうと煩いグレミオのせいで強行突破だった為、この静かな村で少し休んでいこうかと今に至る訳だった。

例の如く、誰かくれば追い返そうと立ちはだかっているグレミオを無視して、ヒオウはぼんやり釣りをしていた。その時子供の声が聞こえた。

「助けてーさらわれちゃうよーっ。とくにそこの金髪のお兄ちゃーん、助けてー。」

なんだその間抜けた叫びは、とヒオウが思っていると、グレミオは、え?コウくん?とか言いながら声がした方に走っていった。
さすがグレミオと変に感心していた時、ふと紋章が騒いだ。
あの戦いの後、静かなものだったこれが、なにやら言いたげにぞわぞわと騒いでいる。
そう、まるで歓喜しているかのように?

その時背後に気配を感じた。殺気はないが腕の立ちそうな気配、そして、真の紋章の気配・・・。ヒオウは少し警戒しつつ後ろを振り向いた。

果たしてそこにいたのは懐かしい面々。
最後の戦いの際に行方不明のままだったビクトール、フリックは元気そうに立っている。
そして相変わらず不機嫌顔のルック。
真の紋章の気配はルック?・・・いやルックのものと違う。
だいたい扱い慣れている彼が今更こんなに気配を洩らすわけがない。

そしてもう一人に気付く。